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  • 執筆者の写真Kyohei Hayakawa

バルテュス タブーを遊ぶ画家

バルテュス(1908-2001)


少女の純粋性とエロティシズムに美を見た画家。

ピカソは彼を「20世紀最後の巨匠」と称えた。


数年前に東京都美術館で開催されたバルテュス展を思い出す。

彼の代表作が並んだ神秘的な空間。その独自の美しさに感動した記憶。


バルテュスのタブーを遊ぶ危うさ。

そこには芸術家の理想の姿が感じられる。



バルテュス《美しい日々》1944-1946年

バルテュスの代表作のひとつ《美しい日々》。

挑発的なポーズをとった少女が手鏡を覗き込む。

その表情は官能的でもあるが、ボッティチェッリの描くヴィーナスのような神聖も感じられる。


右には暖炉に薪をくべる男性が見え、彼はバルテュス自身という説もある。

そして左のテーブルには白い水盤が見られる。

燃える薪と男性は欲望を表し、白い水盤は純潔の象徴ともいわれている。

官能と無垢。その狭間に存在する美しい今の姿を少女は鏡の中に見ているのであろうか。


手鏡というモチーフはこの後のバルテュスの作品にもよく登場する。

鏡は伝統的に「ヴァニタス(虚栄)」の象徴とされるが、画家はその解釈を否定している。



バルテュスはポーランド貴族の末裔としてパリに生まれた。

絵は独学で学び、古典絵画とシュルレアリスムが混ざり合ったような独自の世界を描いた。

やがてエロティックな少女たちの作品を発表しはじめると、強い賞賛と激しい非難を浴びる芸術家となる。


恐らくはじめは画家として名を売るため、わざとスキャンダラスな題材を選んだ部分もあったのだと思う。だがそのテーマは自分の求める理想の表現と気付いたのだろう。


バルテュスは自身の描く少女たちを「この上なく完璧な美の象徴」と表現していた。

現実世界では自らで獲得することもできず、やがて失われていく儚い美しさ。

絵画という芸術でその美しさを永遠のものとすることに、甘美な夢をみた画家であった。


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