Kyohei Hayakawa
小村雪岱 粋と洗練
小村雪岱 こむらせったい(1887-1940)
江戸の粋を表すような線描。
洗練されたデザイン。
静謐に聞こえる音。
小村雪岱の絵を観ると、静かな物語が流れ出す。

埼玉県の川越で生まれた雪岱は、画家を目指し東京美術学校(現・東京藝大)に入学。
下村観山のもとで日本画を学んだ。
やがて小説家・泉鏡花と出会うと彼の装幀を手がけるようにもなる。
鏡花の粋と幻想の世界を雪岱は一枚の絵の中で見事に表現した。
まるで『サロメ』におけるワイルドとビアズリーのように、そこには二人の芸術家による確立された世界が生まれている。

その後は当時の資生堂で広告デザインを手がけ、また新派や歌舞伎などの舞台美術にも携わった。グラフィック・デザイナーとしての雪岱はその洒脱な美意識を鋭い感性で表している。
彼の作品から感じられる軽やかさと涼やかさ、物語の本質を描く表現は、デザイナーとして学ぶものが多い。
「私は個性のない表情のなかにかすかな情感を現したい」
雪岱の言葉には、谷崎潤一郎が『陰翳礼讃』で説く日本的美意識と通ずるものも強く感じさせる。