Kyohei Hayakawa
オレンジ

私がオレンジの色に強く惹かれたのは、オレンジ・トルマリンの宝石を見た時です。
その色は宝石の内部に深い影が存在し、オレンジはその影と共鳴するようにきらめくのでした。外へ広がる鮮やかな輝きと深い内側へと入り込む色の影。
幼さ、軽さ、浅い楽観的なイメージの強かったオレンジに、私は新しい美点を見つけました。
オレンジの美を知ったもうひとつの宝石は、スペサルティン・ガーネットです。
快活なオレンジ。しかしその色は気品にあふれ、明るさと高級感が同居しています。
それは私たちの単純なイメージを超え、色の持つ無限の表情を伝えてくれます。
スペサルティンの名は、ドイツの小都市シュペッサルトで発見されたことにちなむといわれます。この言葉の響きもまた、古きヨーロッパの雰囲気が感じられ、高貴なイメージをもたらします。
宝石によってオレンジの美しさを知ると、今まで自分が見逃していた他のオレンジ色の魅力にも気づきます。ゴッホやマーク・ロスコの絵画、建築やファッションなどのデザインに見られるオレンジを振り返り、新たな視点を得るようにもなりました。
『さかしま』というフランスの小説があります。
貴族出身の主人公デ・ゼッサントは低俗な現実に嫌気がさし、パリ郊外の屋敷に引きこもります。美に対する類まれな才能と知識を持ち、独自の美の世界を追求したデ・ゼッサント。自分の屋敷を審美眼にかなった書物や美術品で飾り、退廃的な人工楽園を築く、という物語。
色の美しさも研究したデ・ゼッサントが最も好む色がオレンジ色でした。
彼はオレンジの中に、世俗的なものに侵されない高貴と幻想の輝きを見つけたのです。
『さかしま』は「デカダンスの聖書」とも呼ばれ、耽美主義者たちの愛読書とされています。
耽美的な作品で知られるイギリスのイラストレーター、オーブリー・ビアズリーはこの小説の影響を受け、自身の家の壁もオレンジ色にしました。
芸術家たちにとってオレンジは、耽美を象徴する色ともされたのです。